はじめに
「Doc’s Best Cement(ドックベストセメント)」という材料を使った虫歯治療について、インターネットや広告などで目にする機会がある方もいらっしゃるかもしれません。先日、日本歯科保存学会から「推奨することは難しい」との公式見解が公表されましたので、当院としての見解をまとめました。
ドックベストセメントとは?
ドックベストセメント(Doc’s Best Cement)はアメリカで開発された歯科材料の一種で、抗菌性があるとされています。インターネット上では「削らずにむし歯が治る」「深いむし歯でも神経を抜かずにすむ」「短期間で治療が終わる」といった宣伝も見受けられ、実際にこのセメントの使用を推奨している歯科医院も存在するようです。
ドックベストセメント治療は推奨できるのか?
2025年3月に日本歯科保存学会が表明した見解を要約すると、以下の3点が指摘されています。
1.ドックベストセメントはわが国の薬機法で承認されていない。
2.ドックベストセメントを用いた治療の安全性・有効性について、高いレベルの科学的根拠が示されていない。
3.日本歯科保存学会が推奨するう蝕治療として容認することは難しい。
科学的根拠が不足している現状
歯科治療では、新しい材料や技術が登場するたびに、臨床試験や学術研究を通じて安全性・有効性を検証することが重要です。日本歯科保存学会をはじめとする専門学会は、こうした研究データを総合的に評価し、ガイドラインや推奨事項を策定しています。
しかしながら、ドックベストセメントについては、ランダム化比較試験や長期経過観察など、信頼性の高い臨床研究の報告がほとんど見当たりません。そのため、学会としても肯定的な見解を示すだけの十分な根拠が得られていないのが現状です。
愛歯科医院の考え方
愛歯科医院では、以前よりドックベストセメント治療の科学的根拠が不十分であると認識していたため、取り扱っておりません。これまでも当院の「よくある質問と回答」ページに記載しておりました。
今回、日本歯科保存学会から同様の見解が発表されたことは、当院としても安心材料のひとつです。
愛歯科医院では科学的根拠に基づいた治療を優先しており、今後も学会ガイドラインや公的機関の推奨に沿った治療法を選択していきます。
個人的な感想
実際、「ドックベストセメントの治療を受けてきた」という患者さんが来院され、口腔内を拝見すると、非常に残念な状態になっていたケースが何度かありました。ドックベストセメントそのものに毒性があるとは考えていませんが、「むし歯を削らずにこのセメントだけを詰めれば治療完了」というような広告は、現実的には成り立ちにくいと言わざるを得ません。
まとめ
ドックベストセメントは、国内での薬機法承認が得られておらず、十分な臨床研究データも不足しているため、多くの専門家や学会で推奨を見送っています。愛歯科医院としても、安全性と有効性がはっきりしない材料を使用するメリットは小さいと考え、現時点ではおすすめしておりません。
もし「ドックベストセメントを使った治療」に興味をお持ちの場合は、研究データが不十分である点をしっかり把握したうえで、慎重にご判断ください。歯科治療は一人ひとりの症例に合わせて最適な方法を選ぶことが大切です。ご不明な点や不安がございましたら、ぜひ当院までご相談ください。
愛歯科医院で提供している精密むし歯治療・歯髄温存療法については当サイト内の各ページをご覧ください。
京都市中京区 四条烏丸 愛歯科医院 金明善