「かぶせものがとれたから付け直してほしい」というご要望で来院される患者さんは決して少なくありません。もちろん、外れたかぶせものを元どおり付け直せる場合もありますが、残念ながらそういった処置が不可能で、抜歯しか選択肢がないケースもあるのです。 治療が不可能である旨をお伝えすると、「単に外れただけなのに、どうして?」と驚かれることも少なくありません。むしろ、歯の詰め物やかぶせものが外れるというのは、機械の部品が外れたような単純な事象とは違います。新たにむし歯や歯周病が進行していたり、歯そのものが脆くなっていたりすることが原因で外れている場合が多く、付け直しの処置だけでは対処しきれないことも多々あるのです。 そこで今回は、「そもそも歯の治療回数には限界があるのか?」というテーマを掘り下げ、歯を長く守るために知っておきたいポイントをわかりやすく解説していこうと思います。
はじめに
歯の治療は「一度行えば終わり」というものではありません。むし歯の治療後も、再発すれば再び削って詰め物をやり替えたり、かぶせ物を作り直したりする必要が出てきます。こうした再治療を繰り返すうちに、歯質は少しずつ失われていくものです。最初は小さなむし歯の治療だったとしても、何度か再発してしまうとやがて神経を取る治療(抜髄)が必要になり、最終的には抜歯へと至ってしまうケースも珍しくありません。
再治療は何回まで可能? 平均3~4回が限度と言われる背景
「一本の歯に対して何回の治療が可能か」という問いに対しては、さまざまな歯科医師や専門サイトが「平均3~4回程度」と述べています。歯科専門メディアのDental Tribune JapanやQuint Dental Gateなどでは、臨床経験や事例データに基づき「歯の再治療は3~4回が限度になることが多い」と言及しているケースが見受けられます。
もちろんこれはあくまで目安であって、患者さん一人ひとりの口腔環境や生活習慣、ブラッシングの仕方、歯ぎしりの有無などによって大きく変わります。ただし「平均的には複数回の再治療を行うと、いずれ抜歯のリスクが高まる」という点は、多くの歯科医療従事者が実感していることです。
再治療が歯に与えるダメージ
再治療によって歯質が失われる最大の理由は、むし歯が再発したり、詰め物・かぶせ物の隙間から汚れが入り込んだりした場合、新たにむし歯になった部分を削る必要が生じるからです。一度治療した部分の近くや周辺の歯質を削り取るため、健康な歯の壁も少しずつ薄くなってしまいます。
再治療を繰り返すうちに、抜髄(神経を取る治療)へと進む可能性が高まり、その後は根管治療を行ったうえで大きな被せ物を装着することになります。さらに再発が起こると、抜歯以外に選択肢がなくなるリスクが高まってしまうのです。いくら歯科医療が進歩しても、「まったくむし歯にならない」「治療後に再発をゼロにできる」というわけではありません。
再治療を少なくするための予防とメンテナンス
歯を長持ちさせるためには、再治療の回数をできるだけ少なく抑えることが大切です。そのために重要なのが、「むし歯や歯周病が進行しないように予防すること」と「万が一トラブルが起きても、早期に発見して最小限の処置で済ませること」の2点です。
1. 毎日のセルフケア
正しいブラッシング方法や歯間ケア(デンタルフロス・歯間ブラシなど)の活用が欠かせません。特に歯と歯の間や、歯と歯ぐきの境目は汚れが溜まりやすい場所なので、意識してしっかりと磨く必要があります。
2. 定期検診とクリーニング
定期的に歯科医院で検診を受けることで、もしむし歯が再発していてもごく初期の段階で対処でき、削る量を最小限に抑えられます。プロによる歯垢・歯石の除去、フッ素塗布などはむし歯や歯周病の進行を防ぐうえで非常に有効です。
3. 生活習慣の見直し
食事の回数や内容、歯ぎしりや食いしばりの有無、喫煙や過度の飲酒など、歯に負担をかける生活習慣を改めることも、再治療を減らす大きなポイントになります。
何度も再治療をした歯でも諦めないために
「歯の神経を抜く」処置を行うと、統計的には歯の寿命が短くなります。歯の根が割れて、抜歯に至る確率が高くなるためです。
深いむし歯であっても、できるだけ神経を抜かないで治療すること、隙間なく精度の高い詰め物やかぶせ物で修復処置を行うことが歯の寿命を延ばすために重要です。
すでに「何度も再治療を繰り返している歯」がある場合でも、適切な処置を行うことで、できるだけ抜歯を回避し、歯を残せる可能性があります。根管治療(根の治療)を高精度に行い、しっかりとした支台築造と被せ物を施せば、まだまだ機能を取り戻せるケースは少なくありません。
こうした精度の高い治療は、健康保険適用外となり、時間と費用がかかります。しかしながら、現代の医学では失った歯を再生させることができない以上(インプラントも人工物です)、手を尽くして歯を守っていきたいと考えています。
ただし、これ以上の再発を防ぐには、これまで以上に予防とメンテナンスが重要です。再治療を繰り返している歯は、むし歯になりやすい構造や生活習慣を抱えていることが多いため、原因を突き止めて改善していく必要があります。
まとめ:長く歯を残すために必要なこと
「一本の歯の治療回数は、平均3~4回が限度になる」という見解には、臨床経験に裏付けられた一定の説得力があります。もちろん個人差はあるものの、再治療を繰り返すたびに歯質が削られ、最終的に抜歯を選択せざるを得ない事態は十分に起こり得るのです。
だからこそ、むし歯や歯周病を予防し、再治療を最小限に抑えるための「最適な治療」、「丁寧なセルフケア」と「定期メインテナンス」が欠かせません。愛歯科医院では、できる限り歯を抜かずに長く使い続けられるよう、患者さん一人ひとりの生活習慣やリスクに合わせたメンテナンスプログラムをご提案しています。生涯にわたって自分の歯で噛む喜びを守るために、ぜひお気軽にご相談ください。
【参考情報】
・Dental Tribune Japan(歯科専門メディア)
・Quint Dental Gate(歯科医療従事者向け情報サイト)
・歯科医師・歯科医院のブログ記事など多数
京都市中京区 四条烏丸 愛歯科医院 金明善