予防矯正とは
予防矯正とは、乳歯列期(2〜6歳頃)や混合歯列期(6〜12歳頃)の小児を対象に行う早期の矯正治療のことをいいます。
早期初期治療あるいはⅠ期治療と呼ばれたりもします。
予防矯正は、将来的な歯並びの問題を予測し、その重症化を防ぐことを目的としています。
顎の成長や永久歯の萌出をガイドすることで、より簡単で効果的な治療が可能になります。
「永久歯が生えそろうまで様子をみましょう」という対応だと、永久歯列になってから、永久歯の抜歯が必要になったり、あるいはあごの骨に対する外科手術が必要になったりします。このような方針を、問題が起きた後で対処する後処理型だとすれば、予防矯正は次のようにいうことができます。予防矯正は問題が起こる前に、あるいは問題が小さいうちに、できるだけ単純な処置で対処して、問題が大きくならないように、できれば問題が生じないように、予防的に対処する矯正歯科の考え方だということです。
予防矯正の基本的な考え方は、「その子がほんらい持っている正常な成長発育を促す」ということです。
矯正治療といえば、いかにきれいに歯を並べるか、ということに目が行きがちです。
見た目だけを整えた矯正治療は、後戻りの可能性が大きくなりがちです。
顎と顔の成長発育を理解し、見た目だけではなく、歯と口の機能を正しい成長発育していけるように導くこと、そうすることで健康的で調和のとれた歯並びを達成することが、歯並びとかみ合わせを考えるうえでは重要です。
かたち(形態、Form)とはたらき(機能、Function)、そしてすがた(姿勢、Posture)はそれぞれが密接に関連しています。
機能と姿勢が不正咬合の原因となり、結果として歯並びという形態に現れるのです。
予防矯正は、原因からアプローチする矯正歯科治療ということもできます。
このような原因に着目した矯正治療のアプローチは、成長発育の力が大きく発揮される幼児期・小児期でなければ不可能になります。
永久歯が生えそろってからではできないことを、成長発育期に行っておくことが、合理的です。
予防矯正の効果
後戻りが少ない
歯列矯正で常に問題となるのが「後戻り」です。後戻りとは、矯正治療で移動させた歯がもとの場所に戻ることです。望ましくない方向に動くことでもあります。
予防矯正ではお口周りの筋肉をトレーニングしながら、歯が並ぶ仕組みに着目して、歯並びが乱れる原因にアプローチする治療です。
そのため、後戻りが少ない矯正治療ということができます。
健康的な顔立ちに変わる
予防矯正では、形態(Form)、機能(Function)、姿勢(Posture)の三位一体に着目して治療が進められます。
結果として、その子がほんらい持っている自然で機能的な顔立ちに成長していきます。
ストレスが少ない
後述するような予防矯正で用いる装置は、取り外し式であったり、固定式であってもシンプルな装置なので、装着に際してのストレスが少なくなっています。
また、取り外し式の装置(マウスピースや床矯正装置)の場合、使用時間は日中一時間と就寝時に限りますので、学校など外出の際に持って出る必要がありません。
永久歯抜歯の可能性を低くする
予防矯正では、顎の骨が成長する力を最大限に利用します。それにより、歯が並ぶ土台を広げ、永久歯が生えるスペースを確保します。
永久歯の抜歯を前提とせず、できるだけ避けることを目指していきます。
ただ、顎を大きくするといっても、遺伝子で決められる本来の大きさよりも広げることはできません。また、歯の大きさも遺伝子によって決まります。したがって、どうしても永久歯の抜歯が必要になるケースはあります。
見た目だけではなく機能面も整える
予防矯正では歯並びという見た目の問題だけでなく、機能的な問題にも着目していきます。
食べ物を噛む、飲み込む、発音、呼吸、生きていく上で大切な口の機能がきちんと営まれるように誘導していきます。
歯の位置や角度を細かく調整することはできない
予防矯正では、個々の歯の位置や角度などの精密な仕上げを目指していません。
上下の歯列の調和、歯が並ぶスペースの確保、望ましい成長発育への誘導を主眼においています。
使う装置もそれらを達成するための装置ですので、細かい歯の位置調整はできません。
このような仕上げについては、永久歯が生えそろってからブラケットやマウスピース(アライナー矯正)で行います。
成長期に予防矯正を行っておくと、永久歯列期の仕上げの矯正も単純になり、期間の短縮が見込まれます。
理想的な噛み合わせに導ける
不正な歯並びや噛み合わせを改善する際には、根本的な原因を解決することが重要です。この改善によって、歯並びの美しさに加え、健康的な噛み合わせを持ち合わせることができます。適切な噛み合わせは、むし歯のリスクを減らすことにも繋がるとされています。
永久歯を抜かずに済む
従来の矯正歯科では、歯列を移動させるためにワイヤーを用い、そのため多くの症例で永久歯の抜歯が必要とされていました。しかし、予防矯正では顎そのものの幅を広げるため、スペースを確保するための抜歯が必要なケースはごく稀です。
鼻呼吸の習慣もつく
トレーニングによって舌の位置が安定すると、口呼吸から鼻呼吸へと自然に変わり、様々な全身症状を軽減できます。
予防矯正で行うお口のトレーニング「口腔筋機能療法(MFT)」
愛歯科医院の予防矯正では、治療を進める中で口腔筋機能療法(MFT)を取り入れています。
その理由は、矯正装置の力に頼るだけの矯正治療では、歯並びが悪くなる原因に対処できないからです。
歯列の中での歯の位置、そして上下のかみ合わせの状態が、どういう仕組みで決まるのか。
それは歯ぐきの中から歯が生えた後、歯の周りにある筋肉のバランス関係で決まります。
歯の周りの筋肉とは、舌、頬、唇などで、頬には表情を作る筋肉と、噛む力を生み出す筋肉があります。
このバランスが崩れると、歯並びの乱れにつながります。
歯並びの乱れは、口の機能の発育不全につながります。それは結果として、全身の状態にも影響を与えます。
口腔筋機能療法(MFT)のトレーニング内容
口腔筋機能療法(MFT)で行うトレーニング内容の一部をご紹介します。
①あいうべ体操
あいうべ体操は厳密に言うとMFTではありませんが、はじめの一歩として取り組んでいただいています。
唇、舌、頬の筋肉を意識して大きく動かすことが大事です。
②ガムトレーニング
ガムを噛んで丸めたら、舌で上顎の天井(口蓋)に押しつけて広げます。
その状態でつばを飲み込むまでが1回分のトレーニングです。
ガムは砂糖不使用のものを使います。
③ポッピング
舌の先を「スポット」につけて全体を吸い上げます。
口を大きく開けて舌の筋(すじ)をできるだけ伸ばします。
舌でポンと音を立てます。
「スポット」とは、舌の先が収まっているべき場所のことです。
MFTのトレーニング内容はこの他にもたくさん種類があります。
お子さんの歯並びや機能の状態に合わせて、その時点で必要なトレーニング内容を取り入れていきます。
予防矯正で使用する主な装置
マウスピース装置
弾力のあるシリコーン製のマウスピース装置です。T4K(ティーフォーケー)やプレオルソなどを、お口の状態に合わせて、選びます。
この装置は「トレーナー」とも呼ばれます。この言葉の意味は、ただ単に口の中に入れておくだけでなく、装置を使ってトレーニングを行うことで効果を発揮するということです。例えるなら自転車だと思ってください。自転車にまたがっているだけでは前には進みません。筋肉の力でペダルをこぐことで、自転車ははじめて前に進むようになります。
マウスピース装置は筋肉をトレーニングするとともに、筋肉(頬や舌、唇など)と歯並びとの調和をはかり、正常な発育に近づけるように誘導していきます。
マウスピース装置の使用時間は、一日1〜2時間と、就寝時となります。学校に持っていく必要はありません。
す。
マウスピース装置のメリットとデメリット
メリット
- 口呼吸から鼻呼吸へと誘導する
- 口の筋肉の調和をとる
- 舌の位置を持ち上げ、正しいポジションに誘導する
- 歯列の拡大を誘導し、歯が並ぶスペースを作る
- 痛みなどがあれば自分で取り外せる
デメリット
- 細かな歯の傾きや位置を微調整することができない
- きちんと使わないと効果を発揮しない
- 毎日装置を使う習慣をつけないと効果を発揮しない
床矯正装置
床矯正装置とは、既製のマウスピースと違い、お口に合わせて作られる(カスタムメイド)、取り外し式の装置です。
マウスピース装置よりも直接的に作用します。
主に歯が並ぶ土台(歯ぐきの部分)を拡大して、歯が並ぶスペースと舌が動くためのスペースを作ります。
こちらもマウスピース装置と同じく、毎日しっかり使わないと効果がありません。
ワイヤー装置 3Dアプライアンス
3Dリンガルアーチ
3Dアプライアンスは、歯並びのアーチ(歯列)に沿って装着される固定式の装置です。
アーチの内側(裏側)に装着されるので、外からは装置が見えません。
3Dアプライアンスの機能についてご紹介します。
- 大臼歯のコントロールができる
- 歯列の拡大ができる
- 乳歯が抜けた後のスペースを失わずにキープできる
上記のような機能は、3Dアプライアンスにしかない機能です。
ブラケットとワイヤーの装置(一般的なワイヤー矯正装置)では歯列の拡大はできません。
メリット
- 歯の裏側に取り付けるため、周囲の方には目立たない
- シンプルな装置のため、調整に多くの時間を要さない
デメリット
- 患者さんご自身で外すことはできない
- ワイヤーが折れたり、曲がったりすることがある
(緊急の際はすぐに対応しますので、ご連絡ください) - 細かな歯の傾きや位置を微調整することができない
予防矯正の治療の流れ
STEP.1歯並び相談
お子様の歯並びやかみ合わせについて、気になっていること、ご心配なことなどのお話をお伺いします。
おおよその治療の目論見や、治療内容についての簡単な説明を行います。
STEP.2診察・検査
予防矯正治療に必要な検査を行います。
検査内容は以下の通りです。
- 一般歯科的検査
- 口腔内写真撮影
- X線写真(レントゲン)
- 口腔内スキャン
- 口唇閉鎖力の測定
STEP.3診断・治療計画のご説明
検査結果をもとにして診断を行い、治療計画を立てます。
その治療計画や、費用面についてご説明し、ご同意が得られてから治療が始まります。
STEP.4歯磨きチェック・むし歯の治療
歯ぐきの炎症(歯肉炎)やむし歯があると予防矯正の治療を始めることができないため、まず先に対処します。
ない場合でも、予防をしていけるように対処していきます。
STEP.5予防矯正の開始
多くの場合、唇や舌など、歯の周りの筋肉(口腔周囲筋)のトレーニングから治療が始まります。
矯正装置については、歯並びやかみ合わせの状態に応じて、適切な装置を選んで使っていきます。
STEP.6再検査・治療計画の再検討
治療の進行具合に沿って、適切なタイミングで再検査を行います。
歯並びやかみ合わせの状態を見ながら、矯正装置を交換します。
STEP.7永久歯列の完成
歯の生え替わりが終わり、永久歯列が完成したら予防矯正は完了となります。
その後は定期メンテナンスに移行するか、もしくは永久歯をきれいに並べる永久歯の矯正に進みます。
予防矯正を行っておくと、永久歯列の矯正(仕上げの矯正)の治療が単純化され、短期間で終われるようになります。
予防矯正についてよくある質問
予防矯正はいつ始めるのが適切ですか?
一般的に、5〜9歳頃が予防矯正を始める適切な時期とされています。ただし、個々のお子さんの成長や歯の状態によって最適な開始時期は異なります。早ければ3〜4歳から開始することもあります。定期的な歯科検診を受けていただきながら、最適な時期を見定めましょう。
予防矯正にはどのような利点がありますか?
予防矯正には以下のような利点があります:
1. 将来的な歯列矯正の必要性や複雑さを軽減できる
2. 顎の成長を適切にガイドし、より良い咬み合わせを実現できる
3. 口呼吸や舌癖などの悪習慣を早期に改善できる
4. 永久歯の萌出スペースを確保し、抜歯の必要性を減らせる
5. 将来的な治療期間の短縮や費用の削減につながる可能性がある
予防矯正の治療期間はどのくらいですか?
予防矯正の治療期間は、お子様の年齢、症状の程度、成長の速度によって大きく異なります。一般的には6ヶ月から数年程度ですが、場合によってはそれ以上かかることもあります。
また、治療後も定期的な経過観察が必要です。治療計画は個々の患者さんに合わせて立てられるため、詳細は検査後のカウンセリング時にご説明いたします。
予防矯正は痛みを伴いますか?
予防矯正は通常、大きな痛みを伴うことはありません。装置の装着直後に軽い違和感や圧迫感を感じることがありますが、数日で慣れてきます。使用する装置の多くは取り外し可能で、固定式の装置も比較的小さいものが多いため、日常生活への影響は最小限に抑えられます。痛みや不快感が続く場合は、必ず担当医師に相談してください。
予防矯正を受けなかった場合、どのような問題が起こる可能性がありますか?
予防矯正を受けなかった場合、以下のような問題が生じる可能性があります:
1. 永久歯の萌出位置の異常(叢生、転位など)
2. 顎の成長バランスの崩れ(上顎と下顎の不調和)
3. 咬み合わせの問題(開咬、交叉咬合など)
4. 口呼吸や舌癖などの悪習慣の継続
5. 将来的により複雑で長期間の矯正治療が必要になる可能性
早期に適切な対応をすることで、これらの問題を予防または軽減できる可能性が高まります。
予防矯正を受けると余計に費用がかかるように思うのですが?それを上回るメリットがありますか?
一時的には費用がかかりますが、予防矯正を行うことで以下のような利点があります。 永久歯が生えそろってからの仕上げの矯正(Ⅱ期治療と呼ばれることもある)までを行うと仮定した場合、
1. 永久歯列の矯正が単純化されるので、治療期間が短縮される
2. 永久歯抜歯の可能性を減らすことができる(絶対ではありません)
3. 本来の自然な顔立ちへ誘導される
4. 機能面での正常な成長発育が誘導される
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京都市中京区 愛歯科医院 院長 金明善